民主党に求められる丁寧な対応
八ツ場ダム建設中止
前原誠司国交相が建設中止を明言した八ツ場ダムの地元・群馬県長野原町。公明党と住民との意見交換会で、ある女性の悲鳴にも似た涙声が響き渡った。
「ダム建設を推進する国のため、ダム建設に反対していた父や祖父母のお墓を掘り返し、移転したときの心情を分かっていただきたい」
「ムダを省く」という視点から「一度始まった公共事業の見直し」を主張する民主党。これに誰も反対はしないが、実際に地元住民の生の声を聞いて、公共事業のストップには多くの課題があることを痛感した。
首都圏の1都5県の治水と利水を目的としている八ツ場ダム。昭和27年、当時の建設省が建設調査に着手した。地元住民の大半が反対する中、交渉は難航。40年の歳月を経て平成4年と7年、国・県・町が基本協定を結び、住民もダムの建設を受け入れた。それから20年近くの間に水没地区住民の移転のほか、道路やJR吾妻線の付け替えも進んでいる。
住民の声聞き、政策変更の難しさ痛感
意見交換会では住民や自治体関係者の怒りが爆発した。群馬県の大沢知事は次のように語った。
「平成7年の国と町との合意協定。当時の政府は自社さ政権で、さきがけの代表幹事は今の鳩山首相。菅国家戦略相は当時、政調会長。前原さんもさきがけの衆院議員として政府・与党の中にいた。その政府と契約したのに…。地元や知事に相談もなく一方的な中止。これで地方は国を信用することができるのか」
「『(民主党が)野党のときに何度も八ツ場ダムを視察し、地元や自治体の方々とお話をしてマニフェストにした』との前原国交相の言葉が新聞に掲載されていたが、いつ、どこで、誰とそういう話をしたのか」と怒りをあらわにする住民の声もあった。
前原国交相は全国143の「ダム総点検」を宣言しているが、八ツ場ダムも費用対効果を含めて、検証した上で中止を発表すべきではなかったか。住民の暮らしにも関係する政策変更の場合、それまでの議論と手続きの透明化が重要だ。
就任会見で「マニフェストに書いてあるから」と建設中止を表明した国交相。ムダ削減は大賛成だ。だが、そこにはイメージではなく、客観的なデータによる説得力と、これまで苦しんできた住民に対する丁寧な対応も求められている。
(平成21年10月7日付 夕刊フジより転載)