防衛省は情報開示で信頼回復を
多くの国民が不信感を抱くイージス艦事故情報
日本人の生命を守る船が、その日本の漁船を「沈め」てしまった。乗組員の2人は6日間たった今も行方不明だ。
海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故。まだ真相ははっきりしていない。しかし、事故が発生してからこれまでの報道をみると、どうも首をかしげざるをえない。それは防衛省の対応だ。
事故発生したのが19日午前4時7分。石破防衛相に一報が入るまで1時間半かかった。その日のうちに防衛相は緊急連絡体制の改善を指示したが、なぜ遅くなったのか。情報が護衛艦隊司令部、海上幕僚監部、内局・運用企画局と伝達されていく途中で何が手間取ったのか。防衛省は明らかにしていない。
さらにおかしいのは防衛省の発表する情報が次々に変わる、もしくは小出しということだ。
「あたご」が「清徳丸」の灯火を確認したのは衝突2分前と当初発表した。しかし翌日には衝突12分前に確認していたことが明かされる。しかも確認した灯火の色も右舷の「緑」から左舷の「赤」に変わった。海上自衛隊の幹部が「訂正というより、新たな情報が加わった」と釈明したとの報道もあった。
一方、「清徳丸」が所属していた漁協では、事故当時に現場海域にいた漁船の船長らが会見。各船のGPS(衛星利用測位システム)に残る航跡などを基に、衝突前後の模様を語った。
海上保安庁が業務上過失往来危険容疑で「あたご」の乗員に事情を聴いている。その一方で、防衛省としても調査をしているはずだ。ちなみに「あたご」の建造費は約1400億円。行方不明の2人を捜索にあたり、捜査をしている海上保安庁の年間の予算が1800億円。これには1万2000人の海上保安官の人件費も含まれている。
イージス艦の存在を否定するつもりはない。だが、それは日本の安全保障のためであり漁船と衝突させるためではない。
事故当時、「あたご」には10人の見張りがいたという。その10人が、どのように漁船を見たのか。そしてどのように対応したのか。多くの国民は防衛省に不信感を抱いている。小さなウソをつくと、その後もウソの上塗りをせざるをえなくなるが、最後はそれがバレる。
太平洋戦争の時、「大本営発表」ということで国民に真実を伝えなかった。その結果、日本は敗れた。防衛省にとって不利なことでも、積極的に情報を開示していく。それが、防衛省の信頼を回復する第一歩になる。
(平成20年2月26日付 夕刊フジより転載)