連載87 政治も求められる「全魂の一手」



  
政治も求められる「全魂の一手」
 
 
 
 
 
 
 
見応えあった将棋の名人戦
 
 将棋ファンにとって今年の「名人戦」は見応えがあった。
 
 羽生善治名人に挑戦したのは郷田真隆九段。「7番勝負」の第一局は4月、羽生先勝で火ぶたを切った。一進一退の攻防は第5局で郷田が3勝目をあげ王手。そこから羽生は粘りを発揮した。 カド番をしのいで3勝3敗のタイに持ち込み、最終局も81手で郷田を退けた。これで6期目の名人を獲得し、7冠のタイトルでは大山康晴15世名人の80期に次ぐ73期となった。
 
 小学校に入学する前だった。亡くなった父から将棋を教わった。せっかちな父は、考えながら指しているかと思うほど早指しだった。小学生のクラスで将棋ブームになったこともあった。その頃、「プロとアマの差が最もひらいているのが将棋」と聞いた。
 
 将棋のプロには現在約150人の現役棋士がいる(ちなみに国会議員は722人)。プロになるには奨励会に入会。6級からスタートし、昇級昇段して四段でプロとなる。都道府県のアマ将棋のトップレベルでも奨励会の6級といわれるそうで、自分たちのヘボ将棋からすれば、まさに将棋のプロは雲の上だ。
 
 そのプロ棋士の世界には7大タイトルがあり、その最高峰が名人戦なのだ。
 
 プロ棋士がA級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組と5クラスに分かれ、1年かけて順位戦を戦う。成績によって上のクラスに昇級、下のクラスに降級したりする厳しい世界だ。
 
 トップ棋士の集まりである10人が総当り戦を行なうA級順位戦。ここでトップとなれば、ようやく名人戦の挑戦権を獲得する。つまり、プロとなって、どんなに早くても名人に挑戦するのは5年かかることになる。
 
 江戸時代から世襲制だった将棋の名人位。昭和12年に実力制名人位がスタートし、名人位に就いた棋士は12人。ちなみに平成5年に私が衆院議員に初当選後、16年の間に首相は10人もいる。
 
 政界に目を転じると、国会で先日行われた党首討論は本来、次の首相を目指す政治家同士の一騎打ち。いわば政治の“名人戦”でなければいけないはずだ。だが、「名人戦の域には及ばない」と思った人もいたのではないか。
 
 将棋は奨励会、順位戦と厳しい戦いを経て、名人になる。対局中の一手で天国から地獄へ転落する将棋。今の政治も全魂を傾けた一手が求められている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(平成21年7月1日付 夕刊フジより転載)
 
 
2017年02月20日