チリ鉱山事故に見習うべきリーダー像
「奇跡の生還」に世界中の人々が感動した。暗い世相の中で久しぶりの明るいニュースだった。
チリのサンホセ鉱山の落盤事故。
国会図書館で調べてみると、事故発生時の新聞記事は見つからなかった。地球の裏側で起きた落盤事故について、わが国メディアはあまり関心がなかった。
ところが、事故から17日後、地下700?で33人全員が無事でいることが確認されると、新聞、テレビが報道しはじめた。
それから約2ヶ月近く、33人の救出作戦を通し、数多くのドラマが伝えられた。
閉じ込められている間に地上では娘が誕生した29歳の作業員。安否を気づかう地上の家族たちの中で、妻と愛人が鉢合わせするハプニングも。
生き埋めになった69日間について早くも映画化の動きも出ているという。「奇跡の生還」の映画化といえば「アポロ13」を思い出す。主演・ラベル船長のトム・ハンクス。地上の主席管制官ジーン・クランツはエド・ハリスが好演した(アカデミー助演男優賞にノミネート)。絶対助かると分かっていてもハラハラドキドキした。
「アポロ13」でもリーダーの決断が重要だった。今回の救出劇で多くのメディアが大きく取り上げたのは、32人の作業員を統率したルイス・ウルスアさん(54)だった。
事故直後、20日分の食料を確保しようと、小さじ2杯のツナなどを48時間に1度配分することを決め、17日後の生存確認まで全員で耐えた。パニックに陥りがちなメンバーに「希望を失うな」と励ましたウルスアさんは、救出の時も「33番目」を選択した。
テレビのコメンテーターも絶賛したリーダー。どうしてもわが国の“リーダー”の菅首相と比較してしまう。
臨時国会での4日間にわたる衆参の予算委員会が終った。菅首相より仙谷由人官房長官の方が目立った予算委だった。
「希望を失うな」―。
リーダーたる首相は国民に「希望」を指し示す責任がある。だが、菅首相の答弁には、その気迫が感じられなかった。
そういえば、事故現場の近くの家族が待つテント村は「希望」を意味する「エスペランサ・キャンプ」といわれた。また、作業員の妻が出産した女児も「エスペランサ」と命名された。
首相はどのような「希望」を描いているのだろうか。このままだと、国民は地上の陽光を浴びることができなくなる。
(平成22年10月20日付 「夕刊フジ」より転載)