首相は当事者意識が欠如
「もうこの国はどうなっちゃうのかしら」
臨時国会がスタートした1日の夜。都内で飲食店を営むおかみさんが嘆息した。さらに、おかみさんは大相撲の秋場所千秋楽の場面を語り始めた。
「私、国技館に行ってたの。テレビでは分からなかったようだけど、菅さんが(総理大臣杯の)表彰で土俵に上がるとき、すごいやじだったの」
―中国問題はどうした!
―解決してから出てこい!
「そうよね。尖閣で大変な時に相撲を観にくるなんて…」
私もテレビニュースで表彰式を見たが、菅直人首相はおどおどしていたように感じた。
菅首相が鳩山内閣からバトンを引き継いで4カ月。参院選、民主党代表選があったとはいえ、内外の問題が山積し、「政治空白」の4カ月になってしまった。
今年の夏は記録的猛暑だった。特に熱中症で死亡した人は過去最高。被害者は高齢者に多かったが、まさに災害といってもおかしくない。そんな時、菅首相は軽井沢のホテルで静養。テラスで読書する姿を記者に公開し各新聞に掲載させた。
また、この時期に円高が急激に進行し、回復基調にあった輸出産業に打撃を与えていた。しかし、政府はスピード感あふれる対応をしなかった。
最大の“空白”はやはり尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件だろう。報道によると、逮捕するときは内閣で検討が重ねられたという。岡田克也外相(当時)と海上保安庁を所管する前原誠司国交相(当時)は逮捕を主張。前原氏は会見で「国内法に基づき粛々と対応」と強気の姿勢をみせていた。
ところが、中国から異常なまでの対抗措置を受け、船長を釈放してしまった。仙谷由人官房長官は「釈放は検察の判断」と強弁したが、額面通り受けとる人は少ないのではないか。逮捕の判断は内閣。外交問題に発展し、釈放の判断は検察。これが民主党の主張する「政治主導」なのか。
国民が困っている、苦しんでいるときに対応するのが政治の仕事だ。また、相手のある外交は、一つの判断がどう展開するか、先を読むことが不可欠。今の内閣にはその「当事者意識」と「想像力」が欠如している。
所信表明演説で「有言実行内閣の出発です」と胸を張った菅首相。しかし実行すべき具体的「言(葉)」がまったくない。冒頭のおかみさんではないが、多くの国民が嘆息している。
(平成22年10月5日付 「夕刊フジ」より転載)