納得できる説明なく、置き去り
政治から“虐待”受ける 国民
「子どもの成長と一緒に、自分も成長していかないと」
児童虐待の報道が後を絶たない中、児童虐待防止を特集した先日のNHKの番組。その中で、6歳と2歳の男児を持つ母親の言葉に、3人の子の父親でもある私はハッとさせられた。
母親は「言っても聞かない子どもたちにイライラする」とも語っていたが、児童虐待予防の「しつけ方講習」を受けて、「しかる時は分かりやすく納得させること
」と心がけ、「一緒に成長する」ことを学んだ。
番組で知ったが、「虐待のサイクル」というのがあるそうだ。「イライラ」に よる 体罰で一時的に言うことを聞かせても、結局は親子関係が悪くなり、問題行動はなくならない。そして、体罰が繰り返されるという循環だ。
これを避けるためには、「分かりやすく話し、納得させること」ということだが、 相手は子ども。実際は、大変に難しい。これは「言葉」が大切な政治家にも通じる。
だが、最近は納得させるような丁寧な説明がなく、逆に、言葉が軽くなっている 。
永田町では次期首相を事実上決める民主党代表選の真っ最中。先日の日本記者 クラブ主催の公開討論会は、まさに国民にとって、「分かりにくく、納得できなかった」
のではないか。
菅首相は小沢前幹事長を攻撃。まるで与野党の党首討論のようだった。「お金にまみれた政治文化を変えなければいけない」と語ったが、その人を代表、幹事長と担いで「トロイカ体制」といって手を組んでいたのは首相自身ではなかったか。
また「やるべき政策課題」として雇用を連発するが、具体的にどうするのか、 まったく語っていなかった。これでは「納得しろ」といわれても無理がある。
一方の小沢氏も「政治とカネ」について、「一年有余の強制捜査の中で実質的な不正、犯罪はなかったと結論を得ている」と強弁。だが、捜査内容は検察しか分か
らな い。国民は土地取引の4億円の出所や政治資金収支報告書の虚偽記載がなぜ行わ れた かなど、さまざまな疑問点が残る。それに対して「納得させる」説明になっていなかった。
「普天間問題」もそうだ。「3人集まれば文殊の知恵ということがある」といい、 国外・沖縄県外移設ができるような言い回しをした。だが、政権交代後、民主党はその「文殊の知恵」を出してこなかった。
国民が納得できず置き去りにされたまま、次期首相が決定し、政治が動く。ある意味で「児童虐待のサイクル」に似て、国民は政治から“虐待”を受けようとしている。
(平成22年9月7日付 夕刊フ ジより転載)