連載128 国交省・東北地方整備局徳山局長「闇やのオヤジ」となり現場に応える


 
国交省・東北地方整備局徳山局長

「闇やのオヤジ」となり現場に応える
 
  
 
 
 
 握手をしながら言葉がすぐに出なかった。何か言おうとすると、涙がこぼれそうになる。
 
 今月1日、仙台市内の国交省・東北地方整備局長室。今年1月に赴任したばかりの徳山日出男局長は震災対応で疲れきっているにもかかわらず、柔和な笑顔で迎えてくれた。雑然とした局長室のソファには震災直後から泊まり続けた証の寝袋と毛布がある。
 
 震災発生後、整備局2階の災害対策室に陣取った徳山局長。上空からの被害状況把握のため仙台空港からヘリを飛ばした。地震発生から37分後だった。その5分後には仙台空港は津波が襲い、使用不能に。まさに間一髪だった。
 
 被災地は広範囲にわたり、救助部隊を被災地へ送るルートが確保できるか。徳山局長は車両が通行できるように、障害を取り除いて道路を開く「啓開(けいかい)」に全力をあげるよう指示。この「啓開」体制を発動したことが、その後の救援に役立った。
 
 津波被害が大きかった東北沿岸部。内陸部を走る東北道、国道4号の縦軸ラインを確保した上で、沿岸部に向け東西に伸びる横軸を開通させる「くしの歯作戦」を展開した。
 
 「啓開」には重機が必要だ。電気も止まり、電話もつながらない中、災害時の協定を結んでいる地元の建設会社へ職員たちは走った。自ら被災しながらもチームに多くの業者が参加してくれた。震災翌日の12日は16本の国道のうち11ルートが通行可能に。今回の震災で自衛隊の活動に多くの国民が拍手を送ったが、その自衛隊の責任者は「現地に迅速に到着できたのは(東北)整備局のおかげ」と徳山局長に感謝の言葉を述べた。
 
 また、全国の地方整備局からの緊急災害対策派遣隊・TEC―FORCE(テクニカル・エマージェンシー・コントロール・フォース)が駆けつけ、被災自治体に職員を派遣した。
 
 自治体は情報が途絶する中、派遣された職員はリエゾンと呼ばれ、各市町村と自衛隊や国・県とのパイプ役となった。ちなみにリエゾンはフランス語で「つなぐ」という意味だそうだ。
 
 徳山局長は各リエゾンに「自治体の首長の横にいろ。会議にも出席し、何でも要望を聞いて連絡しろ」と指示。首長もどこまで要望していいのかとまどっていると、徳山局長は「『闇やのオヤジ』と思って何でも要望してください」と文書まで作って各自治体に発信した。その結果、仮設トイレや日用品ばかりか津波で流された町役場の代わりの仮庁舎まで建設した。
 
 「闇やのオヤジ」とまで言って現場に応えるキャリア官僚。国交省はこれまで公共事業の元締めとして多くの批判を浴びてきた。だが、不眠不休で多くの官僚が頑張っている。
 
 別れ際の徳山局長の柔和な笑顔は「壁は厚いかもしれないが、必ず東北の復興はできる」と思わせてくれた。
 
 
 
 
 
 


 
 
(平成23年5月10日付 「夕刊フジ」より転載)


 

2017年02月20日