連載98 鳩山政権はこの国をどの方向に導くつもりなのか
鳩山政権はこの国をどの方向に導くつもりなのか
明治の指導者は国を把握していた
「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」
司馬遼太郎氏の小説「坂の上の雲」の書き出しだ。
昨年12月。NHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」第1部が5回にわたり放送された。主人公は極東の小国・日本を日露戦争で勝利に導いた秋山好古、真之兄弟と俳人・正岡子規。ドラマでは真之役の本木雅弘、好古役の阿部寛、子規役の香川照之とそれぞれ好演している。
年が明けて改めて原作を読み返してみた。亡父が「司馬ファン」
で、本棚にあった「坂の上の雲」の単行本全6巻を初めて読んだのが中学2年の夏休みだった。
この小説は明治100年にあたる昭和43年、「産経新聞」
の夕刊に連載小説としてスタートした。当時は高度経済成長の真っ只中だった。原作によると、明治の日本は貧しかった。だが、青年たちが一生懸命に生き、国家を背負い、奇跡に近い形で日露戦争を乗り切った。子どもながらに高揚したのを覚えている。
改めて政治に関わっている立場から読み返してみると、主人公の3人以外にも、明治の人々に畏敬の念を覚える。
それは、自らの国を知っていたということだ。当時の強国・ロシアと戦争を始めると同時に、国家指導者が終わり方も考えていた。奉天会戦の後、満州軍の参謀総長・児玉源太郎は東京に戻り、「火をつけた以上は消さにゃならんぞ」と語った。
日露戦争から40年後。同じ日本が今度は終わり方を考えない太平洋戦争に突入していった。司馬氏が「坂の上の雲」を書いて40年以上が過ぎた。今の国家指導者は、この国をどの方向に導こうとしているのか。鳩山首相は昨年10月、臨時国会の所信表明演説で「無血の平成維新」と叫んだ。
文芸評論家の野口武彦氏はこの言葉に対し、厳しい批評を加えている。「明治維新は単なる権力の交代ではなくて、国の統治形態を変え、所有権の移転までやった。(中略)今回の政権交代は江戸時代の老中交代のレベル」(毎日新聞)と断言した。
まもなく通常国会が始まる。21世紀の日本。世界の中の日本。明治のように自らの国の現実を把握し、どの方向に導くのか。国会で骨太の論戦が期待されている。
(平成22年1月13日付 「夕刊フジ」より転載)