気がかりな家族崩壊
不明老人や育児放棄
イヤな感じがする。
高齢者の所在不明が各地で相次いでいる「消えた100歳」問題のことだ。
昨年9月の「敬老の日」を前に、日本は100歳以上の高齢者が4万人を突破するという報道があった。平成元年には3078人だった100歳以上の高齢者が20年で100倍以上になったわけだ。
また、先月26日には厚生労働省が平均寿命を発表した。男性79・59歳、女性86・44歳と、ともに4年連続で過去最高を記録した。女性は世界1位、男性も5位だったが、男女合わせた平均寿命は1位となっている。しかも、女性の1位は25年連続という。
だが、世界に冠たる“長寿国”という心温まるニュースが、「消えた高齢者」問題という暗い話題に、かき消されてしまった。
発端は東京・足立区の事件だ。111歳の都内最高齢の男性が白骨遺体で発見された。家族が同居していたにもかかわらず、30年前に死亡していたらしい。
これを契機に、各自治体が慌てて100歳以上の高齢者の所在を確認。共同通信の調べによると、7日までに不明者は19都道府県で75人に達したという。
不明やすでに死亡していながら、家族がその年金などを受け取っていた事例もあるから、開いた口がふさがらない。
高齢者の所在や安否については、自治体職員や民生委員が面会するケースがあるものの、今回はいずれも本人とは面会せずに時間が経過した場合がほとんどだ。家族から「会いたくない」「施設に入った」と言われ、それ以上の調査ができない場合があったという。
高齢化社会の進展に伴い独居老人が増える中、行政による高齢者の所在や安否確認の方法も検討していかなければいけない。
しかし、一連のニュースで気になるのは「家族の崩壊」である。
「どこにいるか分からない」。テレビのインタビューに平気でこう答える“所在不明”の高齢者の家族と、同じ時期に大阪で1歳と3歳の幼児が部屋に放置され、遺体でみつかった事件が重なる。
幼児の母親は23歳。死体遺棄容疑で逮捕され、調べに「ご飯も水も与えなければ生きていくことはできないとわかっていた」と供述したという。
自分の親がどこに暮らしているのか知らないし、気にならない子。一方で一人では生きていけない子供の生命を奪う親―。 国や地域社会を構成する最も小さな絆ともいえる「家族」はどうなってしまったのか。
国の根本が揺らぎはじめている。政治の大きな課題だ。
(平成22年8月11日付 夕刊フ ジより転載)