連載18 [耐震偽装]姉歯容疑者単独犯行か ニュースは作られた?



 
[耐震偽装] 姉歯容疑者単独犯行か
ニュースは作られた?
 
 
 

 
 
魔女狩りになってはならない
 
  ニュースは作られる-。そんな実感を持った事件だった。
 
 耐震強度偽装事件。元1級建築士の姉歯秀次容疑者が今月22日、国会で虚偽の証言をしたとして議院証言法違反(偽証)容疑で再逮捕された。
 
 半年前の姉歯容疑者への証人喚問はTV各局が生中継を行い、新聞、雑誌など「メディア狂騒曲」がすさまじかった。あれは何だったのか、と今思う。
 
 ここで同委員会の理事、そして喚問にかかわった1人として振り返ってみたい。
 
 昨年12月の衆院国土交通委員会。証人喚問で、姉歯容疑者は最初の偽装は98年に木村建設が施工したグランドステージ池上(東京・大田区)と証言した。
 
 さらに同建設の篠塚明・元支店長=建設業法違反で起訴=を名指しして、「鉄筋量を減らすようにプレッシャーをかけられた」と語った。
 
 ところが捜査本部の調べに対し姉歯容疑者は、偽装のスタートは97年に建設確認を受けた東京・中央区のマンションと供述。行政側の調査でもこのマンションの構造計算書が偽装であることが判明した。この物件は木村建設とは無関係だった。
 
 喚問翌日の朝刊各紙。姉歯証言が真実で、木村建設やコンサルタント会社「総合経営研究所(総研)」が、偽装に深くかかわったようなトーンで紙面展開していた。
 
 「『ぐるみ』の疑惑は強まった」(毎日)「組織的偽装をあぶり出せ」(産経)「強まった構造的“犯罪”」(東京)―。翌日の社説の見出しだ。
 
 しかし、4月に姉歯容疑者ら8人が逮捕されたものの、木村建設関係者らの容疑は偽装本件ではなかった。会社の財務諸表の数字を書き換えるなどした建設業法違反容疑。つまり別件逮捕だった。
 
 一連の捜査は今回の再逮捕で終結する見込みという。姉歯容疑者は「心の重荷を誰かに預けたかった」と供述しており、偽装は単独犯行と捜査本部は見ている。
 
 喚問では、ある民主党議員が総研の内河健所長に詰め寄った。「一気通貫で内河さんをトップに姉歯さんまでつながる構図」と指摘、偽装は総研の指示と言わんばかり。「張本人はまさにあなたになるんじゃないですか」と糾断した。
 
 マスコミもこの議員の論理をもてはやした。テレビで彼は“スター扱い”だった。
 
 ところが、結果はどうだろう。総研の偽装の関与は立件できなかった。木村建設の篠崎元支店長も偽装本件では、圧力をかけた張本人として批判されていたが、それも“シロ”だった。
 
 これまでも国会の喚問で真実が解明されたことは少ない。物証もないなか、たった2時間程度の質疑で事実関係の解明にはやはり限界があり、司法当局の強制捜査で明らかになるケースがほとんどなのだ。
 
 私も喚問の場で追及した1人。姉歯証言をもとに篠塚元支店長に強く迫った…。立法府も行政もメディアも、今一度、この問題を検証するべきだと思う。
 
 特に、民間人を呼ぶ喚問は、決して“魔女狩り”になってはならない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(平成18年6月27日付 夕刊フジより転載)
 
 

2017年02月20日