連載127 心を傷つけ、悲しみを与える菅首相
心を傷つけ、悲しみを与える菅首相
言葉は人に勇気と希望を与える。一方で言葉は人を傷つけ、悲しみを与える時もある。
震災後、自宅で妻が「これ読んだ?」とノートに貼った新聞記事を見せることがある。悲しく辛い震災だが、その中でも明るい希望あふれるエピソードも数多くある。それらのいい話を妻がスクラップしている。
岩手・大槌町の避難所に張り出された「スマイル」というタイトルのメッセージボード。「大(槌)小6年 松橋瑞季より 今みんなができること。1.明るくあいさつ。2.進んで仕事を見つけること。3.元気に遊ぶこと。4.手洗い・うがい・健康第一!!」。拡声器で読み上げられ、場内に拍手と歓声が広がったという。
ツイッターから紹介されたエピソードも。「子供がお菓子を持ってレジに並んでいた。順番が近くなり、レジを見て考え込み、レジ横にあった募金箱にお金を入れて、お菓子を棚に戻して出て行った。店員さんはその子供の背中に向けてかけた『ありがとうございます』という声が震えていた」
東京消防庁による福島原発への放水。総隊長の記者会見で妻とのメールが明らかにされた。「これから福島原発に出動する」「日本の救世主になってください」言葉は「言霊(ことだま)」とも呼び、先人はそこに込める思いを大切にした。現代でも言葉の魂は生きている。それは発する人の生き様でもあるからだ。
特にその生き様がダイレクトに言葉に表われるのが天皇、皇后両陛下ではないだろうか。両陛下は東京・足立区、埼玉・加須市の避難所に続いて千葉県旭市を見舞われた。
避難所でひざまずき、一人一人に「大丈夫ですか」「お体は」と声をかけられる。その一語一語に避難された人は勇気づけられたはずだ。
一方、言葉によって心を傷つけ、悲しみを与えたのが菅首相だ。松本健一内閣官房参与との会談で、福島原発周辺に「10年、20年住めない」との発言が波紋を呼んだ。どれだけ当事者である住民を悲しませたか。
菅首相は発言を否定したが、2人だけの会談で一度出てしまった発言の影響は消せない。これまでも「東日本がつぶれることも想定しなければならない」と発言し、批判を浴びた。そこには、今も苦しんでいる人々に対する思いやりや優しさが感じることができない。
陛下とまでは言わない。一国のリーダーに失礼だが、レジの前でお菓子を我慢して募金に協力した子供に学んでもらいたい。それができなければ即刻お辞めになった方がいい。
(平成23年4月19日付 「夕刊フジ」より転載)