民主「V字回復」に待った!
鳩山政権の総括はどこに
「世論」いや正確に言えば「世論調査」は怖い。
発足当初は7~8割の内閣支持率を誇った鳩山内閣だが、わずか8カ月の間で支持率は急落。退陣直前は20%前後だった。
先週、鳩山首相の後継として菅直人氏が新首相に指名された。直後の報道機関による世論調査は目を見張るようなV字回復となった。
組閣前の調査のため、内閣支持率と一概に比較はできないが、「菅首相に期待する」という調査で、朝日59%▽毎日63%▽産経とFNN(フジニュースネットワーク)が57.3%▽共同通信57.6%―と、民主党にとって首相交代が「吉」と出た。
だが、ちょっと待てよと思う。
鳩山首相の退陣の弁によると、辞任理由は2つ。「普天間」と「政治とカネ」だ。首相は交代したが、この2つの問題はまだ解決していない。
まず、「普天間」問題。迷走に迷走を続け、最終的に移設先を沖縄県内の辺野古に決定したが、その閣議決定に副首相兼財務相として菅首相は署名をしている。もちろん「最低でも県外」「学べば学ぶほど」といった鳩山首相の軽薄な言葉をはじめとする無責任な対応が問題だったが、閣内ナンバー2としての8カ月間の菅氏の責任はどうなってしまったのか。
「政治とカネ」も小沢幹事長を道連れにしたダブル辞任で、けじめをつけたつもりかもしれないが、鳩山、小沢両氏から「政治とカネ」への説明は不十分なままだ。
鳩山首相は辞任を表明した民主党の両院議員総会で、「クリーンな民主党」を訴えた。それならば小沢氏の証人喚問を民主党も堂々と賛成をしなければ、「クリーンな民主党」発言も、パフォーマンスに終ってしまう。
それ以外にも「高速道路無料化」「ガソリン税の暫定税率廃止」などのマニフェスト違反。口蹄疫にみられる危機管理の欠如に加え、郵政法案など強行採決連発の国会運営・・・。鳩山首相の責任は重たいが、同時に政権交代を果たした民主党の「8カ月」も問われていたはずだ。
だが、それらの総括もないままに党代表選、続いて新首相が誕生した。報道機関も鳩山首相が辞めるまでは政権課題を指摘していたが、新首相誕生で、そうした記事は消えてしまい、世論調査が実施されている。
民主主義は事実を知るところから始まる。それを伝えるのはジャーナリズムの使命だ。
せめて、国会では予算委員会などの集中審議の場を設け、新首相と野党の論戦が不可欠なのは言うまでもない。
(平成22年6月9日付 「夕刊フジ」より転載)