震災乗り越えセンバツ出場の石巻工・阿部翔人主将の宣誓に目がウルウル
年をとったせいか涙もろくなっている。
第84回選抜高校野球大会の開会式。21世紀枠で出場した宮城・石巻工の阿部翔人主将の選手宣誓を聞いて、目がウルウルしてしまった。
東日本大震災で石巻工も津波で校庭が水没した。練習をしていた部員は校舎3階に避難。出られたのは3日後だった。
グランドに積った泥を部員全員で除去する中、自衛隊、米軍、ボランティアが駆けつけ、1カ月後にようやく泥とがれきが撤去された。練習再開は4月22日だった。
しかし、昨年9月の台風15号で、再びグランドが水没。全国から寄せられた野球用具も水浸し。選手たちは苦難を乗り越え、昨年秋の県大会で準優勝し、21世紀枠で甲子園に。今月15日の組み合せ抽選会で、選手宣誓の大役のくじを引き当てた阿部主将。宿舎のミーティングで選手たちは、それぞれの思いをホワイトボードに書いていた。
「人は誰でも、答えのない悲しみを受け入れることは苦しくてつらいことです。
しかし、日本が一つになり、その苦難を乗り越えることができれば、その先に必ず大きな幸せが待っていることを信じています」
自宅が全壊した阿部主将。選手の中には肉親を亡くしたメンバーも。大人でもショックが大きい中、高校生がその現実を直視して、「苦難」の先に「大きな幸せ」を信じている。今も復興の途上で苦労している被災者の方々がどんなに勇気づけられただろう。
「だからこそ、日本中に届けます。感動、勇気、そして笑顔を」
私は「ここで『笑顔』か」と思った。それは極限の状況の中で乗り越えたナインだからこそ言えるのか。「笑顔」は前進への原動力に違いない。
最後に阿部主将は誓った。「野球ができることに感謝し、全身全霊で、正々堂々とプレーすることを」
感謝の気持ちが甲子園の切符をたぐり寄せたのかもしれない。
石巻工はその2日後、1回戦で敗れたが、宣誓通りのプレーをしたと思う。開会式の日の夕刊各紙は宣誓の全文を掲載した。夜9時のNHKの「ニュース9」も2分15秒の宣誓を全て放送した。
心に響く言葉。それは命からほとばしるからだろう。
震災から1年が過ぎた。同じ「シュショウ」だけど、菅前首相や野田首相の言葉が国民そして被災者の心に響いていないのは確かだ。
(平成24年3月28日付 「夕刊フジ」より転載)