連載121 政治の貧困感じる『タイガーの贈り物』


 
 
政治の貧困感じる『タイガーの贈り物』
 
 
 
 
 
 
―最小不幸社会目指すと言いつつ国民生活置き去り― 
 
 年齢を重ねると物忘れが多くなるのだが、不思議に昔の事は鮮明に覚えている。特に小学生時代のTVアニメの主題歌など、51歳になった今も歌うことができる。読者の中にもカラオケでアニソン(アニメソング)を熱唱して、周りからひんしゅくを買っている人もいるのではないだろうか。
 
 先月31日付の産経新聞のコラム「産経抄」がアニメ「タイガーマスク」のエンディングに流れていた「みなし児のバラード」について触れていた。
 
 ♪温かい人の情けに
 胸をうつ熱い涙も
 知らないで育った
 僕はみなし児さ♪
 
 私も歌えるが、「産経抄」の筆者も「40年前以上も前に聞いた歌なのに、今でも時々口ずさむ」と語っている。
 
 「産経抄」で紹介されていたタイガーマスクのプレゼント。年末年始に心温まるニュースに出会った。
 
 まずクリスマスの先月25日、前橋市の群馬県中央児童相談所の玄関に、ランドセル10個が置かれていた。「子どもたちのために使ってください」と記されたカードが添えられており、差出人は「伊達直人」と書かれていた。
 
 私たちの世代には懐かしい名前だ。プロレスのアニメ「タイガーマスク」の主人公と同姓同名。アニメは孤児として育った伊達直人が悪役レスラー養成機関の「虎の穴」での訓練を経て、タイガーマスクとしてプロレスデビューする。自分を育ててくれた孤児院に寄付をしながら戦うタイガー。寄付をした人は、明らかに「タイガーマスク」のストーリーを意識していると思われる。
 
 年が明けて元日。今度は神奈川県の小田原児童相談所の玄関前にランドセル6個が置かれていた。ラッピングされた箱の一つに「お年玉です 伊達直人」と紙が貼られていた。添えられた手紙には「群馬のランドセルの件、非常に感銘を受けました」「タイガーマスク運動が続くとよいですね」と書かれていた。
 
 それぞれの相談所では今春小学校に入学する管内の児童施設の子どもたちに使ってもらうという。
 
 「タイガーの贈り物」は暗い世相の中で、人の心の優しさを感じさせるニュースだった。だが、政治に関わっている立場で考えると、それだけ、この贈り物は今の政治の“貧困”を表わしているのではないか。
 
 菅首相は「最小不幸社会」を目指すと言った。親と一緒に暮らせない、もしくは親のいない子どもたちが現実にいる。その子たちに今、政治が何をするのか。
 
 通常国会を前に「政治とカネ」をめぐって党内抗争をしたり、問責決議に絡んだ内閣改造でバタバタしている政府・民主党。
 
 国民の生活から離れた永田町に、多くの有権者は怒りを持ちはじめている。                
 
 
 
(平成23年1月12日付 「夕刊フジ」より転載)


 

2017年02月20日